今回のブログではAmazonが提供する新世代の広告測定ツール、「Amazon Marketing Cloud(AMC)」について深掘りしていきたいと思います。最近耳にする機会が増えてきたAMCですが、その本質を一言で表すと「プライバシーを重視した測定ツール」です。個人データではなく、集計データに基づいて広告キャンペーンの全体像を捉えられるのが最大の特徴です。
進化するAMC:ブランドや代理店に欠かせない存在へ
当初、AMCは購入までのプロセスやオーディエンスの行動を分析し、ブランドの理想的な顧客プロフィール(ICP)を見極めるためのツールとして注目されていました。ところが近年では、単なる分析ツールを超えて、ブランドやアマゾンのアカウント運用代理店にとって最重要な測定ツールへと進化しています。広告キャンペーンの結果を俯瞰し、次にどこへ投資をすべきか、そのためにはどんなキャンペーンを立案すべきか、といったビジネス上の大きな意思決定をサポートしてくれる存在になりました。
プライバシーを重視したデータ活用が鍵
AMCが利用するのは集計データのみ。個人の購入者情報は一切含まれていません。この仕組みによって、ブランドは安心して自社のファーストパーティーデータ(自社の顧客データ)をAMCに統合し、Amazon広告への投資と自社サイトでの売上との関係を分析できるようになったのです。結果として、
- よりターゲットを絞ったオーディエンスの構築
- 広告配信の効率化
- これまで不可能だった方法での広告最適化
が実現できるようになりました。
ラストタッチからファーストタッチへ
Amazon広告といえば、以前は「ラストタッチアトリビューション」が主流でした。購入に至る直前の広告に、すべての功績を紐づける考え方です。しかし、AMCを活用すれば、
- ファーストタッチアトリビューション(最初に接触した広告の影響を測定)
- マルチタッチアトリビューション(複数の広告が与えた影響を総合的に測定)
といった、より包括的なアプローチが可能になります。今までは見えなかった新たなインサイトを得ることで、より戦略的な広告運用ができるようになるのです。
なぜAmazonがデータを共有するのか?
ブランドからよく聞かれるのが、「なぜAmazonがこれほどデータを提供してくれるのか?」という疑問。最大の理由は、プライバシーにしっかり配慮した形で広告主がデータを確認できるからです。広告投資の成果やリターンを明確にできれば、広告主は投資先を最適化できます。たとえば、
- スポンサーディスプレイ広告がスポンサープロダクト広告のコンバージョン率を押し上げる
- 特定の製品レベルのキャンペーンやライフサイクルレベルのキャンペーンが思わぬ影響を与える
など、さまざまな角度からの発見が可能です。こうした洞察が得られるからこそ、AMCは「重要なビジネス上の意思決定を行うためのツール」として注目されているのです。
フルファネル広告戦略とAMCの魅力
AmazonはTwitchやPrime Video、Live Sportsなど、多彩なプラットフォームを通じて何百万人もの潜在顧客とつながっています。フルファネル広告を展開するうえで、これだけ豊富な接点を持つAmazonは非常に魅力的。その中でもAMCをうまく活用することで、
- 潜在顧客(オーディエンス)を特定
- 各段階に適したキャンペーンを展開
- 広告の効果を継続的に分析・最適化
といった流れを一元管理できます。さらに最近は、**Amazonで販売を行わないブランド(ノンエンデミックブランド)**にとってもAMCが新たな投資先として注目を集めています。
スポンサー広告とDSP、両方を見据える
AMCは、Amazon DSP向けの測定だけでなく、スポンサー広告の測定やパフォーマンスマーケティングの最適化にも応用可能です。
- スポンサー広告のみ運用している
- DSPでフルファネル広告を組んでいる
- Amazonでeコマースを行っていないがオーディエンスを広げたい
といったケースでも、AMCのインサイトが役立ちます。
AMCを使いこなすカギは「何を質問するか」
AMCがどんなに高性能でも、どのような質問をするかによって得られる結果は大きく変わります。SQLクエリの知識があれば高度な分析も可能ですが、最近は「ノーコード」や「事前に設定されたクエリライブラリ」が充実してきているので、データ分析スキルが限られていても導入しやすくなっています。
- 事前に用意されたクエリやレポートを活用
- 必要に応じてSQL担当をアサイン
- 初心者でも基本的な分析から始められる環境を整備
こうした手順を踏むだけで、意外と簡単にAMCを使い始められます。
「テスト&ラーニング」を促進するAMC
これからの広告運用で大切なのは「テスト&ラーニング」です。AMCを活用すれば、
- 仮説を立ててキャンペーンを実施
- 得られたデータを分析
- 効果が高かった部分を拡大し、成果が薄かった部分を見直す
というサイクルを効率的に回せます。現代の購買行動は、必ずしも直線的に「認知→興味→購入→リピート」という流れにはならなくなってきています。だからこそ、複数の接点をまたいで顧客を捕捉できるAMCが強みを発揮するのです。
ファネルの崩壊とフルファネル広告の重要性
「ファネルが崩壊した」とも言われるように、顧客は多様なルートで商品を発見し、購買に至ります。それでも、フルファネル広告が重要である事実に変わりはありません。最終的にリターンを得るためには、ファネルの各段階で適切な広告を設計し、その影響を測定する必要があるからです。
- ブランディング目的の上層ファネル
- 商品検討を促す中層ファネル
- 購買意欲を高める下層ファネル
これらがどのように相互作用しているのかを把握する上でAMCは非常に優れています。
今後のAMC:スポンサー広告向けAMCが登場
イベントやニュースでも話題になっていますが、スポンサー広告向けのAMC機能が登場しました。これによってAmazon DSPを使用しなくても、スポンサー広告だけでフルファネル広告を分析できるようになる見込みです。
さらに、Amazonとしても広告主にもっとデータを活用してほしい、そして広告投資の効率を高めたいという意図がありますから、ユーザーエクスペリエンスを向上させる新機能の追加が続々と期待されています。
AMC + ファーストパーティデータの連携
Amazonが提供するシグナルだけでなく、各ブランドが自社で保有するファーストパーティデータを活かすことで、分析の幅は一段と広がります。具体的には、
- 自社サイトでの顧客行動とAmazon上での行動の相関を分析
- 自社データ×Amazonデータで新しいオーディエンスを創出
- インクリメンタリティ(増分効果)の測定(Amazon広告が自社ECに与える影響、逆に自社ECの施策がAmazon売上にどう貢献しているか、など)
これらの可能性がどんどん広がっているのです。
まとめ:成長を追求するならAMCの活用がカギ
最後に強調したいのは、「テスト&ラーニングのマインドセットをいかに企業文化に根付かせられるか」という点です。AMCを使って新しいキャンペーンやオーディエンスをテストすることで、
- 何が機能しているのかを見極め
- うまくいった部分に注力して成長を加速
- 失敗から学びを得て、次に活かす
というスピーディーなPDCAサイクルが可能になります。さらに、SQLや技術的な面でハードルがあると感じる方も、「ノーコード化」や「クエリライブラリ」などのサポートが充実してきていますから、まずは小さく始めてみることが成功への近道です。
これからの1年でAMCはさらに進化し、使いやすくなるでしょう。もしまだAMCを活用していない方がいらっしゃるなら、今がまさにスタートするチャンスだと思います。競合他社が思いもしなかった新しいオーディエンスを発掘する鍵が、AMCには眠っています。