Amazon Marketing Cloud(AMC)は、広告主がAmazonプラットフォーム上の豊富なデータを用いてカスタムオーディエンスを作成し、Amazon DSP等で活用できるデータクリーンルームです。近年、米国やヨーロッパの多くのブランドがAMCを活用して従来以上に精緻なターゲティングを実現し、広告費用対効果(ROAS)やコンバージョン率(CVR)の向上、新規顧客(NTB)獲得、CPA削減といった成果を上げています。
本記事は主にアマゾンのサイトなどで掲載されていたケーススタディーなのですが、日本語だと非常に読みにくい部分も多かったので、株式会社Picaro.aiとして再度まとめてみました。
アメリカおよびヨーロッパにおけるAMCを活用したカスタムオーディエンス作成の具体的な事例を10件紹介します。各事例では、背景となる課題、AMC活用の目的、オーディエンスの構築手法、得られた成果、および他ブランドにも応用可能な示唆を提供させていただきます。
事例1:Poppi(米国・飲料ブランド) – AMC分析で新規顧客獲得16倍増を達成
背景・課題:
Poppiは米国の新興飲料ブランドで、リンゴ酢を使ったプレバイオティック炭酸飲料を販売しています。テレビ番組「Shark Tank」で注目された後、Amazonのスポンサー広告を中心に活用し、ブランド認知向上を狙っていました。しかし、広告予算に制約がある中で、オンラインとオフライン双方への送客効果を高めつつ、新規顧客を効率よく獲得する必要がありました。
活用目的:
Poppiは広告代理店と協力し、AMCを活用したデータ分析でメディアミックス全体の効果測定を行いました。目的は、限られた予算内で新しいオーディエンスにリーチし、ターゲットとなるコンバージョン率を維持しながら、全体のファネルを最適化することでした。
手法・設定:
代理店はAMC上でオーディエンスインサイト分析を実施し、Poppi製品の高価値顧客プロファイルを抽出。さらに、複数の広告組み合わせ(ストリーミングTV、オンライン動画、ディスプレイ、スポンサープロダクト)の効果を測定し、どの組み合わせが最も効果的かを検証しました。これにより、上位ファネルの施策と下位ファネルの施策を統合する最適なアプローチが明らかになりました。
成果:
戦略見直し後、わずか6か月でブランド新規顧客数が16倍に増加し、広告起因売上の割合も大幅に上昇。さらに、定期購入の件数も大幅に増加し、オンライン広告が実店舗の売上にも寄与するという成果を実現しました。
示唆・学び:
この事例は、フルファネルの統合的な広告戦略とAMCを活用したクロスチャネル計測が、新規顧客獲得や売上拡大に直結することを示しています。特に、新興ブランドにとってデータに裏打ちされたメディア配分とクリエイティブ最適化が、限られた予算内で最大の効果を発揮するための鍵であると言えます。
事例2:Beekeeper’s Naturals(米国・食品ブランド) – 高意欲セグメントへのターゲティングでROAS向上
背景・課題:
Beekeeper’s Naturalsはハチミツ由来の健康食品を扱う米国のメーカーです。競争が激化する中で、広告投資の効率を高めながら新規顧客を開拓することが大きな課題となっていました。従来のターゲティングでは、より細かなユーザー行動データに基づいた精度の高いオーディエンスが必要とされていました。
活用目的:
パートナー企業は、AMCを用いて広告視聴後に検索行動を起こす高意欲ユーザーや、既存顧客のエンゲージメントパターンに類似した層を抽出することで、広告キャンペーンの成果向上を目指しました。
手法・設定:
まず、AMC上で「広告視聴後に関連キーワードを検索したユーザー」をセグメント化し、次に既存顧客と似た行動パターンを持つユーザーを抽出。こうして定義された2つのカスタムオーディエンスを、Amazon DSPのキャンペーンで個別にターゲティングしました。
成果:
「広告後に検索したユーザー」セグメントでは従来より33%高いROAS、「既存顧客類似ユーザー」では新規顧客獲得率が飛躍的に向上。新たに獲得したオーディエンスが、これまでリーチできなかった高意欲層であったことが明らかになりました。
示唆・学び:
この事例は、AMCを利用してユーザーの細かな行動パターンを把握することで、従来のターゲティングでは見逃されがちな高意欲ユーザーにリーチできる可能性を示しています。ブランドは、こうしたセグメントを活用することで、効率的に新規顧客を獲得し、広告効果を大幅に向上させることが可能です。
事例3:米国ヘルスケアブランド(健康食品) – カート放棄者の再アプローチでROAS60%向上
背景・課題:
ある健康食品ブランドは、オンライン上で豊富な広告を展開する中で、カート放棄ユーザーが一定数存在していることに課題を感じていました。購入直前で離脱するユーザーに対し、どのように購買へと誘導するかが重要なテーマとなっていました。
活用目的:
代理店は、AMC Audiencesを活用してカート放棄者や広告接触が少ない層を抽出し、これらに対してリマーケティングを行うことで、コンバージョン率の向上と無駄なインプレッションの削減を狙いました。
手法・設定:
まず、過去に広告を閲覧しながらもカートに入れたものの購入に至らなかったユーザーを抽出。その後、低頻度で広告接触している層も別途セグメント化し、それぞれに合わせたリマーケティングキャンペーンをAmazon DSP上で実施しました。
成果:
カート放棄者へのリマーケティング施策により、ROASが従来比で60%向上。また、商品詳細ページ訪問あたりのコストも大幅に削減され、全体として効率的な広告運用が実現しました。
示唆・学び:
この事例は、AMCを使って行動ステージに応じたセグメントを細かく構築することで、見込み顧客の再活性化を図れることを示しています。特にカート放棄ユーザーへの適切なタイミングでのアプローチが、売上向上に直結する好例となっています。
事例4:SimpliSafe(米国・ホームセキュリティ) – 未開拓オーディエンスへの訴求でROAS2倍
背景・課題:
SimpliSafeはDIY型ホームセキュリティ製品を提供する米国のメーカーです。従来は一度興味を示したユーザーに対しても再ターゲティングが十分に行われず、広告費の効率が低下していました。特に、サイト訪問や広告クリックはあるが、その後の購買に至らない層へのアプローチが課題でした。
活用目的:
パートナー企業は、AMCを活用して過去に反応があったが未購買の潜在顧客層を抽出し、再ターゲティングによって売上とROASの向上を目指すこととしました。
手法・設定:
AMC上で過去に広告に反応したが、購入に至らなかったユーザーを抽出。その後、このセグメントに対してAmazon DSPでリマーケティングキャンペーンを実施し、さらにブランド理解を深めるための広告キャンペーンも並行して展開しました。
成果:
新たなAMCオーディエンスを活用したキャンペーンでは、ROASが従来比2倍以上に向上。加えて、定期購入登録数の大幅な増加が確認され、無駄な広告費の削減と新規顧客獲得が実現しました。
示唆・学び:
SimpliSafeのケースは、既に一度興味を示したが離脱していたユーザーに対して、再度的確にアプローチすることで劇的な効果を生むことを示しています。未開拓の潜在層を掴み、効率的にリマーケティングを行う手法は、他のブランドにも十分応用可能です。
事例5:画材ブランド(米国・B2B向け消費財) – 高額購買顧客セグメントへの集中で売上49%増
背景・課題:
米国の画材ブランドは、学校や中小企業などからの大量注文が売上の大部分を占めるB2B市場において、さらに効率的なターゲティングを求めていました。従来のB2Bオーディエンスでは網羅できない高額購買顧客層へのアプローチが課題でした。
活用目的:
代理店は、AMCを活用して過去の購入データから年間購入額が高い大口顧客を抽出し、これに絞ったカスタムオーディエンスを作成することで、広告投資効率の最大化を図ることを目指しました。
手法・設定:
AMC上で過去1年間の購入データを解析し、高額購入者を特定。さらに、属性や購買頻度に応じたサブセグメントに細分化し、テストキャンペーンとしてAmazon DSP上で実施。従来のオーディエンスと比較する実験的な運用を行いました。
成果:
テストキャンペーンにより、カスタムオーディエンスの方が商品詳細ページ訪問率、平均取引金額、ROASのすべてで対照群を大きく上回る結果となりました。結果として、広告予算を増やすことなく月間売上収益が49%増加する成果を上げました。
示唆・学び:
この事例は、既存顧客データを深堀りして高価値層に特化したオーディエンスを構築することで、限られた予算内でも大幅な売上アップが可能であることを示しています。特にB2B取引のように顧客ごとの購買規模に大きな差がある場合、優良顧客への集中投下が効果的です。
事例6:GNC(米国・サプリメント小売) – キーワード検索者を狙った新規開拓でNTB顧客78%増
背景・課題:
サプリメント・ビタミンの大手小売ブランドであるGNCは、プライムデーなどの商戦期において、ブランド名を含まない一般キーワード検索での露出と新規顧客獲得に課題を抱えていました。通常のターゲティングでは、ユーザーの購入意図が明確でない層を効率的に捉えるのが難しい状況でした。
活用目的:
GNCはパートナーと連携し、AMCを活用して有望なノンブランドキーワードで検索したユーザー、特に新規顧客(NTB)を抽出し、Amazon DSPでリマーケティングする戦略を立てました。これにより、検索からの購買転換を促進し、全体の新規顧客獲得を目指しました。
手法・設定:
まず、成果の高いノンブランド検索キーワードを特定し、AMCでそのキーワードを検索したユーザーの中から、過去にGNCで購入経験のない層をオーディエンス化しました。こうして構築されたオーディエンスに対し、Amazon DSPでディスプレイ広告を配信し、ユーザーの検討・購入段階へと誘導する仕組みを整えました。
成果:
この戦略により、プライムデー期間中の総購入数が大幅に増加。新規顧客(NTB)の数も前月比で78%増加し、さらに定期購入の登録数も大幅に向上しました。各施策が連動して、新規顧客の獲得とロイヤル顧客への転換に寄与しました。
示唆・学び:
GNCの事例は、AMCを活用して検索行動データをターゲティングに組み込むことで、従来捉えにくかった「キーワード検索者」層に効果的にアプローチできることを示しています。これにより、購入意欲が高まるタイミングでユーザーにリーチでき、広告効果を最大化する新しい手法が明らかになりました。
事例7:Nestlé Purina & Zenith UK(英国・ペットフード) – 広告統合とAMC分析で売上138%増
背景・課題:
英国のNestlé Purinaチームは、人気のドッグフード・キャットフード製品の売上拡大を目指していました。しかし、マーケティング予算が削減される中で、従来の分断された広告運用では目標達成が困難な状況にありました。各チャネルの運用を統合して、限られた予算で最大のシナジー効果を発揮する必要がありました。
活用目的:
Nestlé Purinaは、スポンサー広告とDSP広告の運用を統合し、AMCから得たインサイトを活用して最も効果的なオーディエンスセグメントや配信タイミングを特定することで、売上とROASの向上を狙いました。目的は、統合キャンペーンを通じて新規顧客獲得と既存顧客のエンゲージメント向上を実現することでした。
手法・設定:
まず、Purinaのスポンサー広告チームとDSPチームを統合し、常時型のキャンペーン運用に切り替えました。次に、AMCで過去のキャンペーンデータを詳細に分析し、商品詳細ページ訪問率や購入率が高いオーディエンスを特定。さらに、分析結果を基にデイパーティングを導入するなど、入札戦略を調整し、全体の広告配分を最適化しました。
成果:
統合キャンペーン開始後、Nestlé Purinaは短期間で劇的な売上増加を達成。1か月で前年同月比138%の売上増と、ROASが大幅に改善されたほか、コンバージョン率も飛躍的に向上。これにより、限られた予算の中で大きな成果を上げることができました。
示唆・学び:
本事例は、異なる広告チャネルを統合しAMCのインサイトを活用することで、断片化していた広告運用を一体化し、全体最適化を図ることが可能であることを示しています。特に、デイパーティングや入札戦略の柔軟な変更が、ROI向上に直結する好例です。ブランドは、このような統合運用の手法を参考に、より効率的な広告施策を展開することが期待されます。
事例8:Mondelez France & VML Luxembourg(フランス・菓子メーカー) – パス分析で最適フルファネル戦略を構築
背景・課題:
フランスのMondelezチームは、Amazon上でのフルファネルマーケティングを推進し、認知から購入までの顧客ジャーニー全体にわたるエンゲージメントを強化したいと考えていました。特に、大量トラフィックが見込まれるセール時に、どの広告組み合わせやタイミングが最も効果的かを明確にする必要がありました。
活用目的:
同社は、パートナー企業と協力してAMCを活用し、広告パス分析を実施。各ファネル段階で最も効果的なメディアミックスやクリエイティブを特定し、全体のKPI(クリック率、コンバージョン率、新規顧客獲得率など)の向上を狙いました。
手法・設定:
まず、AMCで広告接触順序を詳細に分析し、どの組み合わせが新規顧客獲得に寄与しているかを検証。DSPやスポンサー広告の組み合わせ、さらにカスタムクリエイティブの効果を確認し、最適なメディアミックスと入札戦略を策定しました。さらに、曜日・時間帯ごとのコンバージョン傾向も考慮し、予算配分を最適化しました。
成果:
新たなキャンペーンでは、スポンサーブランド広告とDSP広告の組み合わせによりクリック率が大幅向上。さらに、全体の売上や新規オーディエンスへのリーチも拡大し、各種指標で従来を上回る成果を実現。Mondelezはこれらの知見を欧州各国の計画にも展開しています。
示唆・学び:
本事例は、AMCのパス分析を活用して最適なファネル戦略を構築することで、複数チャネルの連携効果を最大化できることを示しています。広告の各接触ポイントがどのように作用しているかをデータで把握することが、全体最適化の鍵となる点は、多くのブランドにとって有用な示唆です。
事例9:Fox4Pets & ameo(ドイツ・ペットフード) – AMCオーディエンス+動画広告で新ブランド立ち上げ成功
背景・課題:
Fox4Petsはドイツ発のペットフード企業で、既存ブランドの信頼を背景にしながら、2023年に新たに2つの新ブランドを立ち上げるチャレンジに直面しました。既存顧客の信頼を新ブランドへ継承しつつ、Amazon上での認知拡大と販売促進を同時に実現する必要がありました。
活用目的:
同社は、パートナー企業ameoと協力し、AMCを活用して既存ブランドのロイヤル顧客と新規見込み顧客を抽出。両層に対して、動画広告やDSP、スポンサー広告を組み合わせた全ファネル施策を展開し、新ブランドの市場浸透を狙いました。
手法・設定:
新ブランドのローンチに合わせ、AMCで既存顧客とNTBユーザーの2つのオーディエンスを定義。その後、Amazonプライムビデオ広告(PVA)を中核とした大規模な動画広告配信を実施。さらに、動画視聴者データを元にリマーケティングを行い、各段階でのコンバージョンを促進する戦略を採用しました。
成果:
約3か月間のキャンペーンにより、動画広告で約40%のリーチを実現。さらに、新規顧客の購入率は従来キャンペーンの12倍以上となり、全体の販売数量も大幅に増加。視聴完了率の高さからも、クリエイティブの効果が十分に発揮されたことが明らかになりました。
示唆・学び:
Fox4Petsのケースは、AMCによる既存資産と新規開拓の両面からのアプローチが、新ブランド立ち上げにおいて極めて効果的であることを示しています。動画広告とAMCオーディエンスの組み合わせが短期間で市場浸透を促し、今後の新製品ローンチの参考となる成功事例です。
事例10:Lavazza & GroupM(イタリア他欧州・コーヒーブランド) – D2C顧客をAMCで再発掘しROAS134%改善
背景・課題:
Lavazzaは、直営ECサイト(D2C)とAmazon上での販売を両立させるグローバルなコーヒーブランドです。近年、D2Cで購入していた顧客がAmazonに流れる傾向が見られ、チャネル間の顧客行動を把握した上で、どちらのチャネルでも効果的なマーケティング戦略を構築する必要がありました。
活用目的:
Lavazzaは、グローバルパートナーと連携し、AMCを活用してD2C顧客とAmazon顧客のデータを突合。休眠しているD2C顧客や、両チャネルで重複しているユーザーを特定し、Amazon DSPのキャンペーンで再アプローチすることで、売上とROASの向上を目指しました。
手法・設定:
まず、Lavazzaは自社の顧客データとAmazon購買データを統合し、各国市場での重複率や相互送客を分析。その上で、D2Cで離脱しているユーザーや、Amazonでの購入があるが直営サイト未利用の層を抽出し、カスタムオーディエンスを作成。さらに、各セグメントに応じた専用ラインアイテムをAmazon DSP上で設定し、細かいパフォーマンスの計測と最適化を行いました。
成果:
その結果、キャンペーン全体売上の50%以上がAMC戦略に起因する成果となり、特にイタリア市場では休眠D2C顧客の再活性化により、平均ショッピングカート額が上昇。ドイツ市場では、低迷していた下位ファネルキャンペーンのROASが134%改善し、不採算だったキャンペーンが黒字化する成果を上げました。
示唆・学び:
Lavazzaの事例は、自社のファーストパーティーデータとAMCを連携させることで、チャネル間の顧客移動を可視化し、最適なターゲティングが可能になることを示しています。特に、休眠顧客の再活性化やクロスチャネルの連携強化は、どの市場においても広告効果を大幅に向上させる有力な手法です。今後、CRMシステムとの連携を進めることで、さらなる高度なマーケティング施策の展開が期待されます。
まとめ
各事例に見るように、Amazon Marketing Cloudを活用したカスタムオーディエンスの作成は、従来の手法では捉えきれなかった精度の高いターゲティングを実現し、広告費用対効果や新規顧客獲得、既存顧客の再活性化など多岐にわたる成果を生み出しています。ブランドやメーカーのAmazon担当者の皆様も、自社の課題に合わせてAMCの豊富なデータと柔軟なオーディエンス作成機能を活用し、さらなる売上拡大と効率向上を目指してみてはいかがでしょうか。
これらの成功事例が、皆様のマーケティング戦略のヒントとなり、実務に役立つ一助となれば幸いです。AMCを活用したスポンサード広告やDSP広告の運用にご興味があるブランド様は、株式会社Picaro.aiにご連絡ください。